おはようございます。
東京都内で行政書士事務所を営む倉橋 尚人と申します。
昨今ではスマホやパソコンの普及により、故人が持っていたデジタル機器に残された遺品を「デジタル遺産」といいます。
デジタル遺産には、ネット口座や金融資産、思い出の写真やプライベート情報など様々なデジタルデータが残されています。
デジタル遺産を死後に整理ができていないと、相続のトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。
今回はデジタル遺産について、相続の注意点などを解説します。
デジタル遺産とは
デジタル遺産という言葉自体に明確な定義はありません。
しかしながら近年では、パソコンやスマホなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウントなどがデジタル遺産(デジタル遺品)といわれています。
これらの機器は基本的にパスワードがかかっており、本人以外は内部のデータにアクセスすることができません。
そのため遺品整理中の家族も中身を確認することができず、対応に困るケースが多くなっています。
主なデジタル遺産
主なデジタル遺産として次のようなものがあります。
暗号資産(仮想通貨)
暗号資産(仮想通貨)とは、情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続するブロックチェーン技術を用いて保管および取引されるデジタル遺産です。
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などが有名であり、2017年以降幅広く普及しました。
暗号資産(仮想通貨)は、主に暗号資産交換業者(bitFlyer:ビットフライヤー、Coincheck:コインチェックなど)を通じて取引され、相場の乱高下が起きやすいのが大きな特徴で、銘柄や時期によっては高値で取引されることもあります。
電子マネー
近年で幅広く普及した電子マネーも、デジタル遺産の典型例です。
<QRコード決済ができる電子マネー>
- d払い
- PayPay
- 楽天ペイ
<交通系電子マネー>
- Suica
- PASMO
<クレジットカード系電子マネー>
- iD
- QUICPay
クレジットカードのポイントやマイレージ
クレジットカードを利用すると、利用額に応じてポイントが加算されます。
クレジットカードのポイントも、財産的価値のあるデジタル遺産にあたります。
また、航空券を購入した際に付与される航空会社のマイレージも、デジタル遺産の一種です。
デジタルの著作物(著作権)
近年では、パソコンやスマートフォンなどのデジタル端末を用いて、音楽や画像、動画などの著作物を制作する人が増えています。
著作物には著作権が認められ、その訴求力などに応じて財産的価値が生じます。
たとえば未公表の音楽データは、それを公に配信した際に得られる収益などを基準に財産的価値が認められます。
このようなデジタルの著作物(著作権)は、財産的価値のあるデジタル遺産にあたります。
NFTアート
デジタル形式で制作されたアート作品には、NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を用いた鑑定書や所有証明書が付されることがあります。
NFTとは、ブロックチェーン技術を活用して作成された、代替不可能なデジタルデータです。
一般的には複製可能なデジタルアートについて、オリジナルの制作者を証明することなどを目的としてNFTが用いられています。
制作者の知名度や訴求力などに応じて、NFTアートには非常に高い価値が認められることがあるため、デジタル遺産として相続争いが生じるケースも想定されます。
ネット銀行やネット証券の口座
ネット銀行やネット証券の口座残高も、デジタル遺産となります。
オンライン上で残高を管理したり把握したりする点では、確かにデジタル遺産としての側面を持っていると言えます。
ただし現在では、インターネットバンキングなどオンライン上での取引が主流化したため、店舗を有する金融機関と、ネット銀行やネット証券の違いは相対的なものです。
そのため、ネット銀行の口座残高は「預金」、ネット証券の口座残高は「有価証券」などと捉えればよく、あえて「デジタル遺産」として区別する必然性は乏しい傾向にあります。
デジタル遺産の相続手続き
デジタル遺産の相続手続きの流れは、一般的な遺産と基本的に同じです。
ただし名義変更の方法と手続きについては、デジタル遺産の種類や保管サービスの利用規約などに応じて異なる点に注意が必要です。
遺言書の確認
亡くなった人の遺言書があれば、原則としてその内容に従い遺産分割を行います。
まずは遺品や公証役場、法務局で遺言書の有無を確認します。
相続財産および相続人の確定
遺産分割を行う前提として、相続財産と相続人を確定する必要があります。
相続財産については、本人から伝え聞いた情報や遺品に含まれる資料を手掛かりとして、余すことなく把握します。
相続人については、戸籍資料を取り寄せて確認をします。
遺産分割協議、調停、審判
遺言書が無ければ相続人全員で、デジタル遺産を含めた遺産分割の方法を話し合います。
話し合いの結果、合意した内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人全員が調印します。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を通じて遺産分割の方法を決定することになります。
遺産の名義変更
協議、調停、審判で決まった遺産分割の内容に応じて、遺産の名義変更を行います。
たとえば、不動産については法務局での相続登記、預金については金融機関の相続手続きが必要です。
デジタル遺産の名義変更については、種類や保管サービスの利用規約などに沿った名義面工手続きとなります。
相続税の申告や納付
相続税の申告を要する場合は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に、税務署に対して申告しなければなりません。
デジタル遺産の相続での注意点
デジタル遺産では一般的な遺産と比べて注意すべきポイントがあります。
相続人による把握が難しい
デジタル遺産は目に見えないため、遺品整理などの際に発見することは、決して容易ではありません。
その存在について通知が来るケースは稀であるため、デジタル遺産の所有者が亡くなると、相続人には探す方法がなくなってしまうこともよくあります。
デジタル遺産の把握漏れが生じると、税務調査の際に追徴課税を受ける可能性があり、本税に加えて過少申告加算税などが課されてしまいます。
デジタル遺産を所有している場合は、相続人がその存在を把握できるように、生前の段階でリストを作成しておくことが重要です。
相続手続きが確立されていないケース
デジタル遺産を相続する際には、その種類や性質に応じた手続きをとる必要があります。
しかし相続手続きが確立されていないデジタル遺産も少なくありません。
たとえば暗号資産(仮想通貨)の場合、日本の暗号資産交換業者の口座で保管されているものについては、相続手続きが確立されています。
一方で海外事業者が運営するウォレットサービスで保管されている暗号資産(仮想通貨)については、多くの場合、相続手続きが確立されていません。
また、買い物に利用できるポイントなどについては、利用規約によって相続が不可とされているケースもあります。
相続手続きが確立されていない場合、相続に手間取る可能性も高くなります。
パソコンやスマートフォンの故障
デジタル遺産にアクセスするためのログイン情報をパソコンやスマートフォンなどに記録している場合、その端末が故障するとアクセスできなくなる可能性があります。
また、パソコンやスマートフォンの端末上にのみ保存されているデジタル遺産(著作物など)については、端末の故障によって永久に失われてしまうリスクがあります。
デジタル遺産そのものや、関連する情報が記録してある端末のデータについては、SSD、HDD、USBメモリなどの記録媒体やクラウドサービスを用いて、定期的にバックアップとることがおすすめです。
まとめ
今回はデジタル遺産の相続について解説しました。
デジタル遺産の相続については、一般的な遺産とは異なる点を考慮して対応しなければなりません。
デジタル遺産の種類や保管サービスの利用規約によって手続き内容が様々となります。
少しでも気になる点や不明な点があれば法律専門家へ相談することが重要です。
豊富な知識や経験から、状況にあった的確なアドバイスを得ることができます。
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