おはようございます。
東京都内で行政書士事務所を営む倉橋 尚人と申します。
不動産などの分割しにくい財産が遺されると「換価分割」という方法で遺産分割を行うケースがあります。
遺された財産を売却して、売却したお金を相続人に分配する分け方です。
今回は換価分割の特徴やメリットとデメリットを解説します。
少しでもこの記事がお役に立てれば幸いです。
遺産分割の3つの方法
財産を分ける際は、現物分割・代償分割・換価分割のいずれかから選ぶことになります。
- 現物分割 形ある財産をそのまま引き継ぐ
- 代償分割 形ある財産を受け取った人が、ほかの相続人に代償金を支払う
- 換価分割 財産を売却し、相続人に分配する
換価分割とは
換価分割とは、不動産や有価証券などを売却し、得られた代金を相続人で分割する方法です。
不動産などを換価して分割することで、公平な分割が可能になりますが、不動産などを売却する手間や費用がかかります。
また売却までに時間がかかることもあるため注意が必要です。
換価分割を選ぶ際は、売却前に登記変更を行う必要があります。
亡くなった方(被相続人)名義のまま不動産を売却することはできません。
相続人の名義に変えることで売却手続きを進められるので、複数人の共同登記、または代表者1人の単独登記のどちらかを選択して遺産分割協議書に明記・名義変更をすることになります。
共同登記の特徴
共同相続人全員の名義に書き換えて売却する方法です。
いったん相続人全員の共有状態に名義変更し、そこから買主へと所有名義を移転します。
共同登記のメリット
相続人間で話し合って代表者を決める必要がありません。
誰を代表者にするかで意見が合わずにトラブルになるリスクを回避できます。
また登記が実態に即しており税金関係などの問題が起こりにくいメリットもあります。
共同登記のデメリット
共同相続人全員の名義にすると、全員が不動産売買の当事者となり関わる必要があります。
不動産会社との媒介契約や売買契約書、重要事項説明書などのあらゆる場面において相続人全員が署名押印しなければならず、手間がかかるデメリットがあります。
単独登記の特徴
代表者名義に変えて売却する方法です。
相続人の中から代表者1人の名義に変更し、その相続人から買主へと所有名義を移転します。
単独登記のメリット
代表者が1人で売却手続きを進められるので、手続きが簡単です。
媒介契約書や売買契約書も1人で署名押印すれば足りますし、重要事項説明も1人が受ければ問題ございません。
スムーズに売却活動を進めやすい点がメリットになります。
単独登記のデメリット
1人を代表者にする必要があるため、相続人間で意見が合わないとトラブルになりやすい問題があります。
代表者が受け取った売却金を使い込んでトラブルになるケースもあります。
さらに所有名義人となった代表者のもとに固定資産税の納税通知が届くので、誰が支払うべきかでトラブルになる可能性があります。
長期に渡って売らずに放置した後で売却すると贈与税がかかるリスクも発生します。
換価分割をするメリット
ここでは換価分割を利用することで得られるメリットを確認します。
公平な相続
換価分割では、現物分割のように誰か1人だけが遺産を取得することはありません。
代償分割でも不動産の評価方法の違いなどで不公平感が生まれるケースがありますが、換価分割の場合にはそういった問題もありません。
相続財産の評価を巡ったトラブルがない
代償分割では不動産の評価方法の違いから、評価額を巡って相続人の間で争いになりやすいですが、換価分割なら、シンプルに不動産を売ってお金を分けるだけです。
代償金を用意が不要
代償金を払えない場合には代償分割することができません。
換価分割であれば、相続人の誰にも資力がないケースでも問題なく進められます。
換価分割をするデメリット
メリットがある一方、デメリットも存在します。
デメリットについても確認しておきましょう。
安く売る可能性もある
換価分割をするとき、売り急ぐと不動産は安値でしか売れない可能性が高まるので、相続人全員が損をすることも少なくありません。
売却時に諸経費が引かれる
換価分割するとき、不動産の売却代金から不動産仲介手数料等の諸経費も引かれるので、入ってくる金額が期待していたより少なくなるケースが多々あります。
財産がなくなってしまう
不動産を所有していると将来的に価値が上がったり、賃貸活用して利益を得られたりする可能性がありますが、売却するとそういった可能性が失われます。
譲渡所得税が発生する可能性がある
財産を取得した時よりも価値が上がっていれば、譲渡所得税が発生します。
譲渡所得税とは、売却価格よりも取得費用が安かった場合の差額分に課せられる税金です。
売却価格-(取得費+譲渡費用)の計算式から算出します。
ただし相続税を支払った場合、確定申告することによって所得税が軽減されます。
換価分割が向いているケース
換価分割をすることによって、デメリットよりもメリットのほうが大きいと感じるのであれば、換価分割を検討しましょう。
遺産の相続を誰も望んでいない
不動産や車などの形ある財産の相続をだれも望んでいない場合に適しています。
形ある財産は高価なものが多いですが、活用できなければ負の財産になる恐れがあります。
形ある財産を売却し、相続人で分配すれば全員が納得のいく相続を実現できます。
公平な相続を実現したい
現物分割では受け取るものの評価額によって、代償分割では代償金の額によって不平等になる恐れがあります。
換価分割は1円単位で分け合うお金を決められるので、公平性を保つことが可能です。
細かな金額まで計算したうえで分配すれば、全員が納得のいく相続となります。
代償金の用意が難しい
代償分割では不動産を受け取り、ほかの相続人に相応の額を支払うことで形ある財産をそのまま相続できます。
しかし資金力がなければ代償分割を選ぶことはできません。
換価分割では相続にあたって高額の代償金を用意する必要はないので、誰もが選びやすい分配方法だといえます。
相続税の納税資金に充てたい
形ある財産を売却して現金を手に入れれば、納税資金を確保できます。
相続は故人の財産を受け取るだけでは済みません。基礎控除の範囲を超える部分には相続税が発生し、納税期限までに納める必要があります。
財産のなかに現金が多く含まれていれば問題ないものの、不動産や車などの形ある財産ばかりだと自身の貯蓄から相続金を支払わなければなりません。
貯蓄がない場合は、換価分割で納税資金を用意することが可能です。
遺産売却までの注意点
換価分割の際、遺産分割協議書に「換価分割のために便宜上名義変更する」と明記されていれば、基本的には贈与税は課税されません。
しかし遺産分割協議書の作成後も売却活動を行わず、数年後に売却すると、実態としては「贈与」とみなされる可能性が高くなり、贈与税がかかることになります。
また不動産を所有していると固定資産税も発生します。
固定資産税の納税通知は代表者の元に届くので、いったん代表者が払って他の相続人に清算を求めなければなりません。
共同名義にする場合にも、誰が代表で固定資産税の納税通知を受け取るか決めて役所へ申請する必要があります。
不動産を売らずに長めに所有していると税金上の問題でリスクやトラブルに発展する可能性が高くなっていきます。
できる限り早く売却することが得策です。
換価分割での税金
相続税は課税されない
相続税は、相続が開始された時点の相続財産の評価額に対して課税されます。
例えば土地の場合は、路線価方式や倍率方式によって計算した評価額で計算することになります。
換価分割をした場合の売却価格は、相続財産の評価額とは関係がないため、売却価格に相続税が課税されることはありません。
譲渡所得税は課税される
換価分割をして譲渡所得を得た場合は、譲渡所得税が課せられる可能性があります。
譲渡所得税がかかると住民税もかかります。
譲渡所得とは、不動産の売却で得た利益のことで、不動産を購入するときにかかった費用(取得費)と売るときにかかった費用(譲渡費用)を足した金額を差し引いて求めます。
譲渡所得(売却益)=売却価格-(取得費+譲渡費用)
売却益が出れば譲渡所得税が課税されますが、居住用不動産を譲渡した場合や相続した空き家を譲渡した場合など、譲渡所得税の負担が軽くなる特例があります。
譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有年数によって変わります。
基本的には以下の通りです。
所有年数が5年以内(短期譲渡所得):所得税30%+住民税9%+復興特別所得税
所有年数が5年超 (長期譲渡所得):所得税15%、住民税5%+復興特別所得税
まとめ
今回は換価分割について解説しました。
換価分割は、形ある財産を活用できなくても売却することで利益を受け取れます。
円満な遺産分割を行うためにも、状況に合わせて換価分割も検討しましょう。
不明な点や気になる点があれば、法律専門家に相談することも重要です。
豊富な知識から的確なアドバイスを得ることが可能です。
↓↓↓個別のご相談はこちら
コメント