おはようございます。
東京都内で行政書士事務所を営む倉橋 尚人と申します。
認知症となった方の財産管理方法として成年後見制度、死後の財産分配について遺言(贈与など含む)があります。
昨今において、成年後見制度や遺言制度を補うことができるとして『家族信託』が注目を集めています。
柔軟な対応ができる家族信託について、メリットやデメリット、その手続き方法などを解説していきます。
家族信託とは
将来的に『介護が必要となった』『認知症になった』というように財産を管理できなくなった場合に備え、保有する財産の管理・処分を信頼する家族に託す財産管理方法の一つです。
たとえば不動産の所有権を
「財産から利益を受ける権利(財産権)」「財産を管理・運用・処分ができる権利」に分けます。
この「財産を管理・運用・処分ができる権利」を子に渡す契約を家族信託といいます。
家族信託の仕組み(3者間で行う)
家族信託は『委託者』『受託者』『受益者』の3者で行います。
それぞれの役割については以下のとおりです。
委託者:財産の所有者で、財産を信託する人
受託者:財産の管理・運用・処分を任される人
受益者:財産の利益を受ける人
親が委託者・受益者となり、子が受託者となって財産を管理を任され親が財産の利益を得ることが大半のパターンです。
家族信託が注目されている理由
現代の日本は高齢化となる一方で、認知症リスクに備える動きが必要となります。
厚生労働省の2019年 介護保険事業状況報告によると要介護認定者は75歳以上になると9割近くとなっています。
また2025年には5人に1人が認知症となるということも報告されています。
認知症や脳梗塞などで判断能力が低下する前に、家族信託によって財産を有効に運用しようと考える人が増えています。
家族信託のメリット
財産管理をするうえで自由な管理ができる
委託者(親)が元気なうちに、家族に財産を委託することができるため受託者(子)は意思にそって管理ができます。
認知症の対策として「成年後見制度」がありますが、『親族が後見人に選ばれるとは限らない』『財産の管理・処分が制限される』など利用しづらい点があります。
そのようなこともあり、自由度が高い家族信託が注目されてきました。
遺言書の代わりとして使える効力がある
家族信託契約の中に、自分が亡くなった後の財産権を受け継ぐ人を定めておくことによって、法律上有効となり遺言書と同様の効果を得ることができます。
後に相続が発生した場合であっても、家族信託契約の財産については受け継ぐ人が決まっているため遺産分割協議をする相続人の負担を減らすことも可能です。
共有不動産のハイリスクを回避する
共有不動産は、運用する際に所有者全員の意思が必要となります。
たとえば兄弟(A・B・Cの3人)で共有の家賃収入を得ているマンションがあったとき、一人が認知症になってしまった場合は新規入居者の契約やマンションの大規模修繕などをすることができなくなってしまいます。
この兄弟が高齢の場合は、1人で所有している人から比べリスクが3倍になります。
このような場合に家族信託を活用して、A・Bの持ち分をCに信託することでA・Bの意思能力が喪失することのリスクを回避してマンション運営が可能となります。
収益はA・B・C全員が得ることができます。
成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができる
成年後見制度においては、財産を守ることに重点が置かれています。
財産を減らすことに反する管理をすることはできません(将来に向けた投資など)。
家族信託では、受託者に大きな裁量を与えることが可能です。
委託者が財産の方向性だけ決めて、受託者が柔軟に財産の管理・処分などを検討することができます。
倒産隔離機能がある
倒産隔離機能とは、家族信託において受託者(子)が破産した場合でも信託した財産は差し押さえができない決まりとなっています。
信託した場合であっても、財産権はあくまでも委託者(親)が持っています。
この決まりを『倒産隔離機能』といいます。
家族信託のデメリット
身上監護をするには不十分
家族信託は財産管理のための制度となります。
成年後見人であれば、法定代理人として身上監護についての契約等を行うことは可能ですが、家族信託においてはそのような権限はありません。
身上監護まで考えるのであれば、任意後見制度などを活用したほうが良いでしょう。
身上監護:生活の維持や医療・介護等 身上の保護に関する法律行為
(例 介護サービスの契約など)
受託者になる人がいない場合もある
家族信託をするにあたって、財産を的確に管理・処分ができる信頼を置ける家族がいるかどうかがポイントです。
また、受託者として管理・処分をすることを重責と感じる方もいます。
引き受けてくれる方がいなければ、家族信託をすることは不可能です。
遺留分侵害請求をされる恐れがある
家族信託契約で財産を後継者に承継する場合、他に遺留分を持つ相続人が遺留分を侵害されたとして遺留分侵害請求がなされる可能性もあります。
このようなケースになると家族関係が悪化してしまうため、遺留分に気を付けたり、家族内で了承を得ることが大切です。
家族信託をすることの父母(祖父母)の了解を得られない
家族信託においては、財産をもつ父母(祖父母)が子(孫)へ財産の管理・処分を任せる契約です。
子(孫)が家族信託の内容を理解して、父母(祖父母)の財産を守るために家族信託の話をしても内容を理解してもらえず契約することができないケースもあります。
比較的新しい制度で、贈与とくらべてもあまり馴染みがないため敬遠されがちです。
中には投資信託と勘違いをして、損を被るとイメージする人もいます。
節税対策にはならない
家族信託をおこなっても節税効果はありません。
委託者と受益者が同様であれば、財産権は受益者(親)にあります。
相続が発生したタイミングで、家族信託契約した財産も承継され受け継いだ人(子)が相続税を申告しなければなりません。
家族信託の手続き
家族信託を行うにあたって、手続き内容を記載します。
・信託契約を締結
・信託口口座を開設
・信託登記を行う
・家族信託の運用開始
信託契約を締結する
委託者と受託者で内容を取り決めして契約を交わします。
主に「信託の目的」「信託する財産」「受益者」などを記載します。
信託口口座を開設する
信託管理のため信託財産専用の銀行口座を開設する必要があります。
受託者は自身の財産と信託財産を分けて管理する義務があります。後々のトラブルを防ぐことにもなります。
信託登記を行う
信託財産が不動産であれば、信託財産の公示のため名義人を委託者から受託者へ変更する登記を行う必要があります。
家族信託の運用開始
ここまで手続きを進めれば、運用開始となります。
あとは大切な財産を適切に管理する義務を全うします。
家族信託をするための費用
家族信託にかかる費用は概ね以下のとおりです。
信託契約書を公正証書にする:1万円~5万円程度
不動産の登録免許税:固定資産税評価額の1000分の3
専門家に契約締結のコンサルティングを依頼した場合:信託財産の1%程度(依頼先によって異なります)
専門家によっては契約時のコンサルティングか、信託契約締結後もサポートしてくれるのかサービス内容も変わってきます(もちろん費用も変わってきます)
まとめ
家族信託は身上監護がないため、家族信託と合わせて任意後見制度・遺言を考えておくことが望ましいです。
またトラブルを予防するためにも関係者には家族信託をすることは周知しましょう。
知らされていなかったというマイナスな感情を持たれます。
家族信託の相談は子世代で50代前後の方が多いです。
親世代で70代~80代となります。
認知症になってからではできない契約となるため、気になる方は早めに行動に出ることが大切です。
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