おはようございます。
東京都内で行政書士事務所を営む倉橋 尚人と申します。
任意後見契約とは将来の認知症などに備えて後見人を自分で決めてやってもらいたいことも決めておける大切な契約です。
しかしながら任意後見契約自体は認知度が高いとはいえず、契約内容の誤解や不理解から任意後見人としてトラブルとなる事例が起こっております。
任意後見人となるためには、しっかりとした準備や知識が必要となります。
今回は、任意後見人におけるトラブルの事例や解決策を解説していきます。
少しでもこの記事がお役に立てれば幸いです。
任意後見人とは
任意後見人とは、任意後見制度において、本人に代わって財産管理や身上監護に関する事務を行う人を指します。
具体的には、本人の預貯金を管理して家賃や水道光熱費などの支払いのほか、不動産を売却する手続き、入院や施設入所の手続きなどを行います。
任意後見制度を利用するためには、あらかじめ本人と任意後見受任者(将来において任意後見人になる人)との間で代わりにやってほしいことを定め、公正証書で契約を締結します。
この契約が任意後見契約となります。
任意後見契約は、本人の判断能力が低下した際に家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されて初めてその効力が生じます。
任意後見監督人とは、任意後見人が任意後見契約の内容どおりに仕事をしているかを監督する役割を担う人です。
任意後見人は契約の効力が生じたときから、任意後見契約で委任された事務を本人に代わって行います。
任意後見人には、未成年者や破産者、本人に対して訴訟を起こしている人やその配偶者、直系血族など、法律が任意後見人としてふさわしくないと定めている欠格事由に該当しない限り、誰でもなることができます。
そのため子や兄弟姉妹、姪、甥などの親族や友人など、信頼できる人物を後見人に指定できます。
任意後見契約のトラブル事例
任意後見人は本人の財産を扱うという性質上、同様のトラブルが多く発生することがあります。
〈事例1〉任意後見監督人の選任申立てがなされず、任意後見契約が始まらない
本人の判断能力が低下し、任意後見契約の効力を発生させる必要が生じているものの、任意後見監督人の選任申立てがなされないケースです。
本人の判断能力が低下した際には、本人や任意後見受任者などが家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。
申立てがされると、家庭裁判所は本人の心身の状態や生活状況、本人の意見などをふまえて総合的に判断し、任意後見監督人を選任します。
任意後見監督人が選任され任意後見人の事務が始まります。
逆にいうと任意後見監督人選任の申立てをしないと、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することはなく、任意後見人の事務も始まりません。
その結果、不動産の売却ができない、家賃や水道光熱費などの費用を滞納するなど、本人の希望する財産管理がなされない事態が生じます。
実際に任意後見契約の契約数は、2021年から2023年までの3年間の年間平均が1万4422件であるのに対し、任意後見監督人選任の審判は同期間中の年間平均で741件のみとなっています。
2020年以前のデータにおいても、近年は件数や割合は大きくは変わらず、実際に契約が発効するのは契約数の5%程度しかありません。
必要性が生じているにもかかわらず契約が発効していないケースが少なからず存在していると考えられます。
〈事例2〉任意後見監督人への報告義務を怠る
任意後見人は、任意後見監督人に対して財産の管理状況、本人の生活や療養看護に関する措置、費用の支出および使用状況などを定期的に報告する義務があります。
このような報告をするためには、日々の収支や作業内容を逐一記録する必要があります。
しかしながら親族、特に本人と親子関係にある人物が任意後見人になると、財産を管理するにあたって緊張感が生まれにくく、『他人の財産である』という意識が乏しくなるケースも少なくありません。
その結果、任意後見監督人に対する報告を怠りがちになります。
報告を怠っていると、「任意後見契約に関する法律8条」に則り、本人や任意後見監督人の請求によって任意後見人を解任されます。
〈事例3〉契約内容が不十分で、希望どおりに財産管理をしてもらえない
任意後見制度は、認知症などによって判断能力が低下する場合に備えて、任意後見人を指名し、どのような支援をしてもらうのかを契約で決めておく本人の決定を尊重する制度です。
そのため任意後見人が本人の代わりにできることは、契約で代理権が与えられている事項に限られます。
なお代理権が与えられる事項の一覧を「代理権目録」と言います。
代理権目録の内容が不十分である場合、任意後見人の代理権が認められず、希望どおりに財産管理をしてもらうことができません。
たとえば代理権目録に不動産の処分に関する事項の記載がなければ、不動産の売却代金を老人ホーム施設への入居金に充てる予定であったとしても不動産が売却できない、ということにもなります。
〈事例4〉任意後見人が財産を使い込んでしまう
任意後見人となった以上、「他人の財産を管理している」という意識を持つことが大切です。
しかし親族が任意後見人になると、そのような意識が乏しくなるケースも少なくありません。
他人の財産という意識がなくなり軽い気持ちで本人の財産を流用し、それが常態化して多額の使い込みに発展する事例があります。
弁護士、司法書士および社会福祉士といった専門職による横領事件が発生することもありますが、最高裁判所事務総局実情調査「後見人等による不正事例の統計に記載されているとおり、専門職以外による不正事例の件数が多いのが実情です。
参考出典 最高裁判所事務総局実情調査「後見人等による不正事例」
〈事例5〉任意後見人と任意後見監督人の相性が悪い
任意後見では、任意後見人の事務が始まる際に任意後見監督人が必ず選任され、任意後見人が適正に仕事をしているかを監督します。
多くの場合、任意後見監督人には裁判所が選任する弁護士や司法書士などの第三者が選ばれます。
任意後見監督人の候補者の推薦はできるものの、必ずしも希望する人が選任されるとは限らないため、任意後見人と任意後見監督人の相性が合わない場合もあります。
別の監督人に変えてほしいという相談もありますが、単に相性が悪いという理由だけでは解任は認められません。
トラブルとなった際の対処法
任意後見監督人が選任され、任意後見契約が開始されたあとにトラブルが発生した場合は、以下のような対処法が考えられます。
任意後見人を解任する
任意後見人が任意後見監督人への報告義務を怠る、または本人の財産を使い込んでいた場合には、任意後見人を解任できます。
法律上、任意後見人に不正な行為、著しい不行跡、その他任意後見人に適しない事由があるときは、任意後見監督人や本人などの請求によって、家庭裁判所が任意後見人を解任できます。
後見人が本人の財産を使い込んだ場合は「不正な行為」に、後見人が報告義務を怠っている場合は「その他後見の任務に適しない事由」に該当します。
これらの解任事由に該当する事由があるとして任意後見監督人や本人が裁判所に申立てをし、任意後見人を解任してもらう方法があります。
任意後見人に対して訴訟を提起する
任意後見監督人が本人の財産を使い込んだ場合には、任意後見人を解任するとともに、その損害を回復するために訴訟を提起することも考えられます。
法律上、任意後見人が本人の財産を使い込んだ場合には本人は任意後見人に対して、不当利得返還請求権(民法703条)や不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を根拠にして、使い込んだ金額を返還するよう請求できます。
任意後見人が財産を返す見込みがなければ、訴訟の提起を検討することになります。
ただし訴訟となると法律的に明確な主張や立証が求められます。
トラブルの事前予防
任意後見人とのトラブルを回避する方法を確認します。
専門家に相談や依頼をする
任意後見制度を利用するにあたっては、事前に法律専門家に相談や依頼をすることが重要です。
専門家はトラブルになりにくい契約内容をアドバイスしてくれたり、希望どおりの生活を送れるような契約書を作成してくれたりします。
専門家と話をすることで、任意後見契約が始まったあとの具体的な流れもイメージできるでしょう。
任意後見人に専門家を選任する
法律専門家に任意後見人になってもらうことで、横領などのリスクは比較的低く抑えられます。
このケースは任意後見人と任意後見監督人の双方に定期的に報酬を支払わなければなりません。
財産や収支と照らし合わせ、報酬を継続して支払う余裕があるかを把握する必要があります。
なお任意後見人に対する報酬額は本人と専門家との話し合いで決めますが、月額3万~5万円程度が相場になります。
また任意後見監督人の報酬は諸事情を総合考慮して家庭裁判所が決定し、目安は月額1万~3万円程度です。
任意後見以外の方法を利用する
見守り契約や財産管理等委任契約、家族信託など、任意後見以外の制度を含めた比較検討も大切です。
専門家に相談して、それぞれの制度の内容、メリットやデメリットを理解したうえで、自分に合う制度を利用しましょう。
〈見守り契約〉
見守り契約とは、専門家などが本人と定期的に面談や連絡をすることで、生活状況や健康状態を確認し、本人を見守る契約です。
任意後見制度と異なり判断能力の低下前から利用できますが、財産管理や本人を代理した法律行為はできません。
〈財産管理等委任契約〉
財産管理等委任契約は、判断能力が不十分になる前から財産管理を任せる契約です。
実務上は任意後見契約と同時に締結されることも多く、任意後見契約の「移行型」と呼ばれています。
判断能力があるうちは財産管理等委任契約に沿って対処し、その後、判断能力が低下した場合には同委任契約の効力を失効させ、任意後見契約に移行させるというものです。
〈家族信託〉
家族信託とは、信頼できる家族や親族などと信託契約を結び、財産管理を任せる仕組みです。
任意後見制度と異なり判断能力の低下前から利用できるうえ、積極的な財産管理が可能となる仕組みを構築できるのが特徴です。
また、次代や次々代財産の承継先を決めることも可能です。
まとめ
今回は任意後見人のトラブル事例と対策について解説しました。
トラブルが発生する前に事前対策を講じておいて、安心した生活を送ることがないより大切です。
少しでも不安な点や疑問点があれば法律専門家へ相談することが重要です。
豊富な知識や経験から、状況にあった的確なアドバイスを得ることができます。
事前に予防措置を講じることが、揉め事を避けるために何より重要です。
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