おはようございます。
東京都内で行政書士事務所を営む倉橋 尚人と申します。
不動産などの分割しにくい財産が遺される「代償分割」という方法で遺産分割を行うケースがあります。
1人の相続人が財産を取得して他の相続人にお金を払って清算する分け方です。
今回は代償分割の特徴やメリットとデメリット、代償金の決め方や相続税の計算方法などを解説します。
少しでもこの記事がお役に立てれば幸いです。
遺産分割の3つの方法
財産を分ける際は、現物分割・代償分割・換価分割のいずれかから選ぶことになります。
- 現物分割 形ある財産をそのまま引き継ぐ
- 代償分割 形ある財産を受け取った人が、ほかの相続人に代償金を支払う
- 換価分割 財産を売却し、相続人に分配する
代償分割とは
代償分割とは、1人の相続人が財産を取得して他の相続人には代償金を支払うことによって清算する遺産分割の方法です。
代償分割は、遺産が分けにくいような場合に適しています。
代償金の金額は、遺産の分け方の目安として民法が定める「法定相続分」に応じて計算します。
たとえば2,000万円の価値のある不動産があり2人の子ども(長男・長女)が相続するとします。
長男が不動産を取得して長女に1,000万円の代償金を支払うのが代償分割による解決方法です。
代償分割の金額の決め方
代償分割は不動産や車などの形ある財産を受け取った人が、ほかの相続人に代償金を支払う方法です。
代償金は法定相続分にどおりに決める必要がないため、金額を気にする必要はありません。
前述の2人の子ども(長男・長女)が、2,000万円の価値を持つ不動産を相続する場合、法定相続分に則って決める場合は長男が2,000万円の不動産、長女は長男から1,000万円の代償金をもらうことになります。
しかしながら代償分割は金額を自由に設定できるので、長男と長女が了承していれば500万円でも構いません。
仮に法定相続分以上の額を支払う場合は贈与税が発生する恐れがあるため注意が必要です。
代償金を決める際は、代償分割の内容を遺産分割協議書に明記することも重要です。
遺産分割協議書に明記することで、代償分割について相続人全員の合意があることが確認できます。
また遺産分割協議書に代償分割をすること、代償金をどれくらい支払うかを記しておかないと、代償金が贈与扱いされる恐れもあります。
贈与と判断された場合、贈与税が発生します。
余分な税金が発生することを防ぐためにも、代償金の額や受け取る人の明記は重要です。
代償分割のメリット
ここでは代償分割を利用することで得られるメリットを確認します。
公平な遺産分割
遺産分割の際、分割方法に不公平感があると相続人同士でトラブルにつながります。
たとえば現物分割で長男が価値の高い不動産を「1人で相続したい」と言っても他の相続人は納得しません。
代償分割を利用することで、長男から他の相続人へと法定相続分に応じたお金が支払われるので不公平感は小さくなり、スムーズに遺産分割を進めやすくなります。
財産を残せる
不動産を相続して換価分割によって売却した場合、せっかくの財産が手元から失われてしまいます。
親の遺した家に住みたい、車を相続して活用したいなど、人によってさまざまな希望があります。
また将来の値上がり益を得られなくなる損失なども考えます。
代償分割なら不動産を手元に残せて、次の世代に伝えていくことも可能です。
相続税を節税できるケースがある
代償分割を行って手元に土地を残すと、相続税を節税できる可能性があります。
土地には「小規模宅地等の特例」が適用されるケースが多いことが節税を期待できます。
換価分割によって土地を早期に売却すると小規模宅地の特例を受けられませんが、代償分割であれば相続税額を大きく減らせることも可能です。
不動産の「とりあえず共有」を防げる
不動産は分けることができないため、とりあえず「共有名義」にする人が多くいます。
しかし「とりあえず共有」した場合、将来的に大きなトラブルに発展する可能性を秘めいています。
代償分割によって、「共有しない」もしくは「共有状態を解消する」ことはトラブルの未然防止になります。
代償分割のデメリット
メリットがある一方、デメリットも存在します。
遺産分割に入る前に確認しておきましょう。
相続財産の評価が原因でトラブルが起こりやすい
代償分割をするときには、対象とする不動産の評価が必要です。
しかし不動産の評価方法は一律ではありません。
不動産を相続する人は評価額を抑えたい、代償金を受け取る人は評価額を高くしたいと考えます。
意見が合わずにトラブルになってしまうケースが少なくありません。
代償金を支払えないと利用できない
代償分割を利用するには、不動産を相続する相続人に代償金を支払うだけの資力が必要です。
金額は相続人で自由に決められるものの、あまりにも低い金額だとトラブルが起こる恐れがあります。
お金がなかったら利用できないため、不動産を相続する人は相応の資金力が必要となります。
相続税以外の税金が発生するリスクがある
代償分割を行うと、相続税以外の税金が発生する可能性もあります。
何らかのものを受け継ぐ際は、相続税がかかります。
課税遺産総額が基礎控除の範囲内であれば税金は発生しませんが、範囲を超える部分は課税対象です。
代償分割を選んだ場合、相続税のほかに贈与税と所得税がかかる可能性があるので注意が必要です。
代償分割で発生する税金
代償分割は、相続税以外に贈与税・所得税が発生するケースもあります。
ここでは、相続税以外の税金が発生するケースを確認します。
贈与税
贈与税が発生するケースは以下のとおりです。
- 相続財産よりも多い代償金を支払った
- 遺産分割協議書に代償分割の旨を記載していない
- 死亡保険金を代償金の金額に含めた
形ある財産を相続した人が、取得した財産よりも多い代償金を支払った場合、「代償金-取得金額」から算出される差額分が贈与税の課税対象となります。
また遺産分割協議書に代償分割について記載していない場合も贈与税が発生します。
ほかの相続人に支払ったお金が代償金ではなく、贈与とみなされるため、それに伴う税金がかかります。
また死亡保険金を受け取った人がほかの相続人に代償金を支払った場合も贈与税がかかります。
死亡保険金は、受け取る人の固有の財産です。
遺産分割の対象ではないので、相続人全員で分ける必要はありません。
もし分けた場合は、受け取った人が受取額に応じた贈与税を支払うことになります。
所得税
代償金を支払えず、代わりに所有する不動産を代償として譲渡する場合は譲渡所得税がかかります。
代償金のお金が用意できなければ、相続する人が所有する不動産を代わりにすることも可能です。
ただし、代償金の額と譲渡する不動産の時価に差額がある場合は譲渡所得税が発生する可能性があります。
【長男が所有する土地を長女に代償金として譲渡するケース】
土地の取得費3,000万円
譲渡時の時価4,000万円
取得から5年以上を経過
譲渡時の時価が取得費用を上回っているため、長男は譲渡所得を得られます。
譲渡時の時価4,000万円 – 取得費3,000万円 = 1,000万円が譲渡所得額です。
取得から5年以上が経過しているため、譲渡所得額1,000万円 × 税率20.315% = 203万1,500円を譲渡所得税として納めなければなりません。
これはお金の代わりに不動産を代償とする場合、なおかつ時価が取得費を上回る場合のみ発生します。
不動産を代償した際に、すべてのケースにかかるわけではありません。
代償分割が勧められるケース
公平に分けたい
遺産をなるべく公平に分けたい場合は代償分割を検討します。
財産を取得しない他の相続人も代償金を受け取れるので、公平性が保てます。
財産を残したい
せっかく相続した財産を売却せずに手元に残したいのであれば、代償分割を検討すます。
換価分割すると財産が失われてしまいます。
遺産が不動産しかない
相続財産に預貯金や株式などのいろいろな財産があれば現物分割でも公平に分けやすいのですが、不動産しかなかない場合は、現物を均等に分けることは難しくなります。
代償金を支払う余裕がある
代償分割を行うには、不動産の取得者が代償金を支払う必要があります。
資力がなかったら代償分割はできないため、財産取得希望者に資力があるケースで代償分割を行いましょう。
事業を承継したい
事業を承継する場合にも、代償分割がおすすめです。
代償分割を行うことで、事業で使っていた不動産や自社の株式など、自社に関連するものをまとめて受け継ぐことで事業承継がスムーズに進みます。
受け継いだものに応じて代償金を支払う必要があるものの、全員が納得する金額を提案すれば相続人同士でのトラブルを回避できます。
まとめ
今回は代償分割について解説しました。
代償分割は、1人が不動産や車などの形ある財産を相続し、ほかの相続人に代償金を支払う方法です。
円満な遺産分割を行うためにも、状況に合わせて代償分割も検討しましょう。
不明な点や気になる点があれば、法律専門家に相談することも重要です。
豊富な知識から的確なアドバイスを得ることが可能です。
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